猫と島のおかげ

♣夫婦喧嘩

つい先日のこと。珍しく?もないのだけれど、夫と喧嘩をした。その内容はさておき、犬も食わぬ夫婦喧嘩なんていうくらいなので、今にして思えば大したことではなかったのかも知れないけれど、その時の私はとにかく怒り狂っていた(あり得ないことだけれど、その瞬間は相手に100%非があると思った)。

 

宿の皿洗いを途中で放棄し(←酷い妻・笑)、「許せない」「許せない」「許せない」と繰り返し唱えながら帰宅。その後、数時間風呂に立てこもった。さすがに寒くなってきたのと少し心が落ち着いてきたので風呂から出たが、帰宅していた夫がそのまま何も言わず、私と入れ替わりに風呂に向かったので、「何か言うことはないのか!」と怒りが再燃。

 

そのまま怒りで眠れぬ夜を過ごし、翌朝夫は仕事へと出かけて行った。その間、もちろん一言も言葉は交わさなかった。

 

♣家出してやる

夫に謝る気が無いのなら(自分から謝ろうとは微塵も思っていない・笑)家出してやる…と私の中で静かに決意が湧いた。私が突然いなくなって驚けばいい、困ればいいとさえ思った(←酷い妻・その2)。

 

調べてみるとヘリは午前便も午後便も空席がある。船も問題なく就航しそうな海況。ならば船だろうか?それとも普段通り仕事をしているところを見せて油断させつつ午後ヘリだろうか?

 

…と色々な算段をして、その先は実際に行動に移した時のことを想像してみる。船に乗るとする。車で行く。車がなくなっていて不審がられる。ならば歩いて桟橋に向かう。歩いているところを絶対誰かに見られる。バレる。またはそのまま桟橋まで誰にも会わずに行けたとしても(あり得ないけど)、切符売り場で出島することがバレる。もしくは船に乗る時にバレる。ヘリに関しても全く同様のことが予想される。

 

そうここは人口300人の御蔵島。皆が肩を寄せ合って仲良く暮らしている…かどうかは知らないが、良くも悪くも皆が知り合い。今日は誰が出島したとか、誰々が帰って来たとか、〇〇は△日まで出かけているだとか、☆☆は◇◇に旅行中らしい、とかそういう情報が生活の中で自然に入ってくる。船やヘリに乗る時も、「あれ?出かけるの?」「〜して来るよ」「いつ帰って来るの?」なんて会話は挨拶みたいなものだし、そのやりとりに関しては何とも思わない。

 

だけど、これが家出となれば話は別。ごまかしても様子がおかしいのは人にはすぐわかってしまうと思うし、第一、乗るまでの待ち時間をどう過ごせばいいのだろう(特にヘリの場合)。しかも妻が出て行ったなんてなると、あることないこと噂になるのが常だし(御蔵の場合は、ないことないことが噂になる・笑)、帰って来るにしても出て行った側が絶対不利。

 

…いやいや、待て待て、本気ならそんなこと言ってられない!!

 

♣相談してみる

…と、そこまでを超短時間で色々考え、最終的にもう一人の家族に相談することに。もう一人って言っても、猫なんだけどね。

私:「ねー、ボボさん、私家出しようと思うんだけど」

は?何言ってんの?じゃあオレはどうすんの?

私:「一緒に行こうよ」

嫌だよ、オレ船もヘリも絶対乗らないからな

(確かに、かわいそうでヘリには乗せたくない。船も長時間ケージの中にいさせるのはかわいそう。この猫さん船酔いするし…)

大体にして、お前家出って言ったってどこ泊まる気?猫と泊まれる宿なんてほぼ無いよ?実家帰るの?お前の親に何て説明するの?

(この猫は逐一痛いところついてくるな…)

私:「でも私は悪く無いんだよ!悪いのはあっちで…」

と言いかけたところで、ボボさんに口を塞がれた!しかも両手で!!笑

 

「お前の言い訳など知らん!子どもみたいなこと言って他人に迷惑かけるんじゃねぇ!」ということだろうか。まるで、それ以上何も喋るな、聞きたくない、という風に口を塞がれたのだった。そして同時に、そこで初めて冷静になって今回のことを客観的に考えようと思った。

 

♣猫も鎹かも

確かに夫の考え方に対し、その瞬間は頭にきたが、こちらの言葉も足りなかったのではないか。誤解はなかったか。本当に私は悪く無いと言い切れるのか。そして、そもそも家出するほどのことか?

 

仮に誰にも何も言わず家出したとして、それこそ最悪な結果しか生まないのではないだろうか。「ちょっと困らせてやろう」という出来心が、相手を傷付け、更には相手からの信頼を生涯失うことになるのではないか。

 

そこでやっと我に返った。とんでもないことをするところだったと。気付かせてくれたのはほかでもない、我が家の愛猫である。と同時に、この小さな島のコミュニティが色々なことへの抑止力になっていることも痛感した。

 

子は鎹だという。でも猫だって犬だって、きっとそうなのだろう。「どっちに付いて行く?」となった時に、「オレはどっちにも付いて行かないよ。一人勝手に生きるよ。」と言ってしまいそうなあたりは、いかにも猫なのだが。

 

と言う訳で今回は(も)私が大人になり、「シーチキン買って来て」と何事もなかったかのようなテキストを送ることで喧嘩を終わらせた。「了解」と返信をくれた夫はその夜、いなばのライトツナを買って帰宅した。「シーチキンてのは、はごろもフーズの商標なんだよっ!」「えええ、そんなの知らなかったよ、ゴメンよ…」というやりとりがあったことは、日常に戻ったということだ。

 

♣実家に帰らせていただきます

ちなみに、夫婦喧嘩なんてのはどこの家にもよくあることだと思うが、御蔵の場合、妻が「実家に帰らせていただきます」と言うのではなく、夫に向かって「お前が実家に帰れ!」と言うらしい。出たい時にすぐ出られないもの、ここは私の家、実家がすぐそこにあるアナタが出て行きなさいよ!ということ。荒浜で暮らす御蔵の嫁〜ズは強いのよ(笑)。